京都には、煎茶ゆかりの寺があります。「黄檗山・萬福寺(おうばくざん・まんぷくじ)」です。見どころたくさんあるのに、比較的空いていて、観光しやすいお寺です。お茶好きさんにおすすめのお寺をご紹介します。
煎茶ゆかりの場所「黄檗宗萬福寺」
JR奈良線の黄檗駅から徒歩10分程度のところにある日本三禅宗の一つ黄檗宗の大本山の寺院「黄檗宗萬福寺」。比較的空いてることが多く、のんびり境内を散歩することができます。
異国情緒あふれる中国様式のお寺
ウーロン茶の産地として有名な中国・福建省から来た隠元(いんげん)禅師が開いたお寺です。中国の明朝様式でつくられたお寺で、まるで中国時代劇の世界のような空間。本式のお寺をイメージしていたので、初めて訪れた時に驚きました。中国から日本にインゲン豆を伝えたお坊さんでもあります。
隠元禅師が伝えた、お茶を楽しむための普茶料理
中国出身の隠元禅師が日本に広めたものに、「煎茶」と中国の精進料理である「普茶料理」があります。普茶料理とは、「普く(あまねく)大衆と茶を供にする」という意味。茶礼と呼ばれる、僧侶が行っていた煎茶を飲む儀式の後に、皆さんで普茶料理を楽しんでいたそう。
この普茶料理を境内で楽しむことができます。
普茶料理のコースは利用したことがないのですが、萬福寺に訪れた際に、普茶料理のお弁当をいただきました。お出汁がしっかりきいたやさしいお味で、品数も多く、揚げ物もあり、食べ応えのあるお弁当でした。コースは複数人での利用が必要ですが、お弁当であれば、一人でも利用できます。事前に予約が必要なのでお忘れなく。
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煎茶を広めたもう一人の黄檗僧「売茶翁(ばいさおう)」
隠元禅師と肩を並べる人物として名高いのは、黄檗宗の僧侶である高遊外(こうゆうがい)です。ニックネームは「売茶翁(ばいさおう)」。お茶を売っているおじいさんという意味です。境内には、売茶翁を祀った「売茶堂」があります。
売茶翁が生きていた当時は、煎茶は高級品。そんな時代に、「お茶の値段はいくらでも結構。タダより安くはできないよ」というユニークな方法でお茶を提供していました。各所でお茶を売り歩いていたそう。
鮮やかな花や鳥の絵を描いたことで知られる「伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)」も売茶翁のお客さんでした。売茶翁は、お茶を振る舞いながら、若冲の絵の才能を引き出したと言われています。他にも文人や書画を描く人などが集まっていたと言われていて、今でいうコミュニティサロンのような、お茶会だったのかもしれません。
煎茶道に興味があれば、5月の全国大会へ
この写真は煎茶を広めた隠元禅師と売茶翁に関わりのあった萬福寺では、毎年5月に煎茶道(煎茶を淹れる茶道)の流派が集まって、様々な流派の煎茶道が楽しめる「全国煎茶道大会」を行っています。中国の文化を色濃く残す流派もあれば、抹茶の茶道のような侘び寂びを感じる流派など様々。そして、境内にある重要文化財になっている建物の中で煎茶をいただくことができます。
わたしが参加した時は、松隠堂という隠元禅師の終のすみかだった建物で、狩野派の襖絵見ながら、お茶をいただきました。うっかり転んで襖を傷つけたらどうしようという緊張感も一緒に味わいました。「全国煎茶道大会」の日は、さすがに混雑しているので気をつけてください。また、参加には事前にチケット購入が必要なので、興味のある方は全日本煎茶道連盟のXをフォローしてみてください。
萬福寺は、日本では珍しい中国風の建築様式を持つお寺です。お寺で育まれたお茶文化や普茶料理と見どころがたくさんあります。宇治方面に行くことがある際には、お茶好きさんには立ち寄って欲しいお寺です。