去年から、俳句をはじめました。特別なきっかけがあったわけではなく、ずっと心にひっかかっていたものに、ようやく手を伸ばした感じ。
俳句を詠むようになって、日々の景色が少しずつ変わってきました。
駅までの道に咲く花。空の色。足元の石。
これまで通り過ぎていたものに、ふと目がとまることがあります。
あるとき、以前勤めていた会社の人たちが泊まりがけで、スキー句会を開くと聞きました。句会は、俳句を作って互いに発表する会のことです。家族で参加することに。人と一緒に俳句を詠むのは初めてで、楽しみにしていました。
前日に現地に入り、スキー場を歩きながら、どんな季語が使えるだろうと、あちこちを見て回りました。
雪、風、空、ゲレンデの白さ。
俳句をやっていると、何か面白いものないかなとキョロキョロ見るようになります。
けれどその日の夕方、家族がスキーで転倒。病院に行き、そのまま入院して、翌日自宅に戻ることになりました。
わざわざ前のりしたのに、句会はキャンセル。楽しみにしていただけに、落ち込みました。
夜、病室に必要な荷物を取りに、駐車場まで出ました。
外は真っ暗。広い駐車場に、ぽつんと車が数台。
街灯も少なくて、静かな空気が流れていました。
荷物をまとめて、ふと顔を上げると、空に三日月が出ていました。
山の稜線の上に、細く光る月。
ろうそくの火のように、やわらかく、静かに浮かんでいました。特別な月でした。
そのとき、「俳句をやっていてよかった」という言葉が浮かびました。
もし始めていなければ、空を見上げることも、月に目をとめることもなかったと思います。身のまわりを見る目も少し変わりました。なにげないもののなかに、きれいなものや、やさしい時間を見つけるようになった気がします。
句会には出られなかったけれど、あの夜に見た三日月のことは、今もよく覚えています。
俳句とは長い付き合いになりそうです。